ArtAnimation私的調査室
(アートアニメーション私的調査室)
●一技法を歩みだした功績で名を残したアレクサンドル・アレクセイエフ
アニメーションの一つの面白みとして表現の手法の多様性があり、だからこそ私のページではそれ毎に作品を紹介しているのであるが、アニメーションの発展途上の段階で非常にユニークな手法を見つけだし、それによる作品を残したことで名前を知らしめているのがアレクサンドル・アレクセイエフ(1901-1982)である。
彼の見つけだした手法はピンスクリーンという手法であるが、分かりやすく解説するとこれはびっしりと針を縦に並べた針山を思い浮かべて頂くと良い。
今、光線を斜め上方から当てる時、もし針の先端がすべて平面ならば真上から見たときに針の頭の集まりは平面的に真っ白になるだろう。けれども一部の高さを変えて突出すると陰影が出来る。この高さの変え方を調整すれば陰影の絵が出来る。
それを少しづつ変えて連続写真を撮ったものをフィルム化したものがピンスクリーンと呼ばれる手法であり、これによって微妙な陰影を表すことが出来たのが当時は画期的な手法で多くの人を驚かしたのである。時にアニメーションは線と平面から作られるという固定観念が著しかった為であろう。
で、そのような手法であるから、陰影の微妙の雰囲気は表せるが、基本的にモノクロである。そのためもあり、また彼の作品に刺激されて多くの人々が様々な手法を試みるようになった現在では技法的に見て驚くような技法ではない。技法的にはむしろ歴史的な価値の方が重い作品であろう。
ただ扱った題材がゴーゴリ原作『鼻』(1963)、ムソルグスキー『展覧会の絵』(1972)などであり、上記のような陰影の暗い雰囲気に合った題材であることもあって、その点では今見ても見甲斐はあるかもしれない。
私は以前「鼻」をオフシアターで見たが、画面が暗かったのと話がさっぱり分からなかった(原作を知らない無知のためもあったろう)が、ああいうのこそ何回か見ないと話からなさそうだ。これらの作品はなかなか見る機会がなかったがとうとう2006年にDVD化された。
●抽象アニメーション
それに対して、とにかくアニメーションさせるのにいろいろな手法を探ったのがノーマン・マクラレンで、彼の作品を見るとアニメーションの手法の多様性に驚かされると言う。また、このサイトのようにアニメの手法を論じるなら必見の作品をいろいろ作っているらしい。
私は現在のところ未見なので、自分の感想は述べられない。
●様々な模索へ アレクサンドル・ペトロフなどなど
アレクサンドル・アレクセイエフ、ノーマン・マクラレンのような先人の果敢な試みはアニメーションの技法の多様性を改めて多くの人に痛感させ、さまざまな試みをさせることになる。
比較的最近の作品で知られたものとしてアレクサンドル・ペトロフの作品『雄牛』(1989)、『老人と海』(1999)がある。これはガラスの上に塗料を流して絵を描き、撮影して作る手法で「動く油絵」とも言うべきスゴイ作品だという。私はまだ未見である。
様々な手法という点ではカナダの国立映画制作庁であるNFB(National
Filmboard of Canada)での作家達の活躍が目を引く。冒頭に挙げたアレクサンドル・アレクセイエフ直伝によりその手法を受け継いだジャック・ドゥルーアンがおり、『心象風景{風景画家}』などの作品がある。
ストーリーの内容としてはピンスクリーンらしい、もやもやっとした心理的イメージを描いたものであり、ピンスクリーンの表現にはなかなかマッチしていると感じるが、そこまで考えて楽しめるかどうかは人によるだろう。
キャロライン・リーフはペトロフと似たようなやり方でガラスの上に絵の具を撒いて作る手法を用いた作品『ストリート』(1976)を作っている他、砂で絵を描く手法で『ザムザ氏の変身』(1977)を作っている。その作品はカフカの原作を映像化したものだがドロドロと流れるような表現がストーリーの奇抜さ、すなわち主人公の変身と慌てふためく周りの様子を表現するのになかなかマッチしているように思う。
同じくNFBのイシュ・パテルはビーズを使ったコマ撮りアニメ『ビーズ・ゲーム』(1977)や、あるいは分類的にはセルアニメに分類されるのであろうが、背景に穴を開けてそこから光を取り入れることで、まるでシャンデリアのような映像を生み出した『パラダイス』(1984)という作品がある。私はこの作品『パラダイス』を以前、一瞬だけTVで紹介されているのを見て、その目映いばかりの画面が非常に印象に残り、忘れられなくなったのだが実際にじっくり鑑賞する機会に恵まれず、DVDで出逢うことが出来た。
以上のドルーアン、キャロライン・リーフ、イシュ・パテルの作品は幸運にも一緒のDVDに入れてNFBシリーズの2として発売されている。大衆向けの作品とは言い難いが、アートアニメに関して技法の点から興味を持っている人は持っていて損な作品ではないだろう。
高崎個人的にはイシュ・パテルの『パラダイス』が入っているという点だけで有り難いのだが。